2009/06/30

Departures/Okuribito

おくりびと
先週末、ボストンに一時帰省した際に観てきました。
(中西部の田舎では上映してないんです。。)


最後の場面の展開は中盤くらいで読めてしまいましたが、
そんなことは関係なく、本当に美しい映画でした。


封切してから大分たっているだけに、客席はかなりまばら、
小さな映画館で10数人くらいだったと思いますが、
他に観てたアメリカ人もかなりの率で撃沈。
みんなずるずるすすり泣きしていました。
笑いのツボも泣きのツボも、一緒なんですね。

家庭環境の複雑さからすれば、もしかしたら
アメリカ人の方がよりリアルな共感を覚えるのかも知れません。


韓国人の友達と観て、観終わってからすぐは
二人黙ってとぼとぼと歩いていましたが、気づいたら、
家族だとか愛についてだとか、話し込んでいました。
色々考えさせられますね。


個人的には、"誰かが亡くなった後でもその人と和解できる"
という前向きさが何よりの救いでした。

2009/06/25

日本は医療の質評価でアメリカを抜ける

そんな気がしました。

何をどう抜くんだ、って話ですが。

確かに、質評価の方法論はアメリカがかなり進んでいます。
何を分母に持ってきて、何を分子にして、とかの話については。
年数にして、20年くらい。

ただ、この方法論の多くはPublic Domain扱いということで
公にされているので、実はキャッチアップは不可能ではありません。

NQFが承認した指標群をベースにして、評価したい指標について
開発者が公表している詳細を探せばいいのです。


評価の方法論でキャッチアップできたら、
後は、実際の評価と、結果の活用です。

僕はここで日本がアメリカを抜ける、と確信しました。
なぜか。

それは、アメリカの医療制度がかなり
Fragmented(断片的)な状態になってしまっているからです。


例えば、厚労省にあたるCMSは、
何だかんだいって65歳以上の高齢者のデータしかもっていません。
民間保険の加入者については国は把握していないのです。

また、CMSの運営には病院団体の圧力が大きくかかっているようで、
評価指標の選定・公表も、あたり障りのない範囲に留まっています。
消費者の賢い選択よりも、病院のメンツを保つことが優先されている
状況にあるとのことです。


私のインターン先は病院団体からの圧力が少ないので、
比較的ラディカルな指標を出せる立ち位置にはいます。

ただ、CMSのように患者単位のデータを
取得できているわけではないので、
病院単位でいったん集計されたデータを分析せざるを得ません。


州や学会が特定の手術について細かいデータを取っていたりしますが、
結果が公表されなかったり、そもそもデータはほんの一部の
手術に限られます。


そのほか、民間団体が評価を試し見ていますが、
彼らはデータを売ることでビジネスを行っているので
多くの市民にはとっては結果や方法論はブラックボックスです。



このようなアメリカの現状を目の当たりにすると、
日本の厚労省が持つDPCデータの量、および
厚労省がHPで公表しているデータの粒度は実はかなりのもので、
アメリカでさえ到底達成できるものではないと思うのです
(イギリスなら可能かも)。

公表データは市民向けというほど分かりやすくはありませんし、
医療の質とは関係ない雑多なデータも多く含まれています。

それでも、病院のメンツをあまり気にせずに
積極的にデータを公表している姿勢にはかなり好感が持てます。

あとは、ポテンシャルとして、DPCの係数が
実はP4P (Pay for Performance)そのものに繋がりうる、
という可能性の大きさです。

今は複雑性指標や効率性指標といったものが係数として
考えられていますが、係数がもっとアウトカム寄りにシフトし、
「リスク調整後の死亡率」とかを組み込んでいくことで
良いアウトカムの病院に対して手厚く償還する、といったことも
近い将来可能になることと思います。


わくわくしますね~。

渡米1周年

お陰さまさまです。
日々お世話になってる方々には本当に感謝。

これからの見通しは不透明ですが、
それなりに清清しい達成感はあります。

そんなこんなで、ぱっと思いついた範囲で、
渡米2年目の目標:

-安定した心をもたらすような考え方をもっと身に付ける
-学校の活性化のために2つくらいイベントをする
-音楽を再開する

-学んだことが活かせる就職先を探す
-論文を書く
-リスニング力を向上させる≒ネイティブと臆せず話す

-マラソン1本走る

こんなところで。頑張りたいと思います。

2009/06/13

Day7-10: 2週間終了~

基本、取り掛かっている仕事は同じです。
色々な指標に触れる機会が多く、というか
ほぼそればかりなので、少しずつ知識も増えてきました。

各指標については、以下の3つの点がかなり事細かに
決められています。
  1. 測定対象の定義(病名・手術名、算入・除外要件)
  2. 測定の方法(期間、分子・分母、リスク要因)
  3. スコア化の方法(何らかの得点に換算する必要がある場合)
1.2合わせて、一つの指標について1ページ程度が主ですが、
中には数ページに亘ることもあります。

そんな指標が、NQFに認可されているだけで500あるんですから、
すごいノウハウの蓄積ですね~。

日本がこのような取り組みを実施する際にも大分参考になる、
というか、最初のうちはアメリカ(もしくはイギリス)で
蓄積されたノウハウを、日本に合う形で修正するのが
やはり近道な気がします。

日本でも、指標についてお墨付きを与えるような、
NQF的な役割を持つ団体があると
もう少しスムーズに事は進みそうですが。


日本の病院勤務の友達の
厚労省の提出義務に加え、各病院団体や研究団体、マスコミまで、
 定義がそれぞれバラバラで、根拠があるのかもわからない、
 何の効果を測るのかもわからない、調査依頼がホントによくきます
という嘆きが超リアルです。

個人的には、調査手法が科学的に頑健でないなら
質の測定は百害あって一利なし、とは思うのですが、ね。
(特に、病院間で比較をするような場合は)


Q&A
  • Q.質を評価する方のバックグラウンドは、医師や公衆衛生関連の方ですか?
  • A.オリジナルの指標を作ってる人たちの多くは、MDを持ちつつ大学等で研究しているような人たちがメインかと思います。後は、Health Services Research分野のPhDなど(MDに限らず)。質を評価する人たち、はもう何でもありというか、普通の学士からMBA, RN(看護師)などなど、様々なバックグラウンドからやってきますね。ちなみに、NQFのトップは医師ではなく、Health Services ResearchのPhD+MBAの人です。
  • Q.それ以外に、広く医療政策に関わる人たちのバックグラウンドはどういう方がいるのですか?
  • A.大統領・議員(民主・共和)、政府、学問・学会、職能団体(医師会)、関連団体(保険・製薬)、宗教団体、NPO、消費者・市民団体などなど、皆さんほんと多様で元気。多様で元気すぎて話がまとまらず、建国以来皆保険は実施できず、みたいな。日本は、アメリカに比較して、政策参加者のバックグラウンドの多様性や政策形成プロセスのオープンさが無いかもしれませんが、結果だけ見ればはるかに良い政策にたどり着いていると思います。

2009/06/10

Day6:ようやく使い物に

1週間前は右も左も、でしたが、
ようやく組織がやってることの全貌が見え、
仕事での貢献も、徐々にですが、出せるようになって来ました。

それに伴い、だんだん仕事も増えてきました。
  • Board Meetingに向けたパワーポイント作成
  • データベースの構築
  • ウェブサイト記事の整理
  • 指標のまとめ作成(指標の背景、メソドロジー等)
  • その他もろもろ

データベースに関しては、現在外注先が持っている
データをごっそりもらって内部分析向けに整えるというもの。

SAS(統計ソフト)で、とかいう話になりかけ
やや冷や汗でしたが、SPSSで勘弁してもらえそうです。

SASは学校で授業を取りましたが、まだまだ実践では
使えそうにないですね。。要修行です。


明日はオフィスに誰もいないので
湖のほとりで本でも読もうかな。 SASの!

2009/06/09

Day5: Board Meetingに向けた準備

忘れないうちに、、。

6月中旬のBoard Meetingに向けた準備をしていました。
Board Meetingは役員会/取締役会とでも訳せばいいのでしょうか。
ただ、日本の取締役会とは趣が異なるので、
日本の取締役会的な捕らえ方はできないようです。

非営利組織の最高意思決定機関で、
うちの組織の場合は20数名のメンバーの内、
CEOを除いては社外の人で構成されています。

このBoardがCEOに執行権を委譲する形で組織は動いているんですねぇ。
ちなみに、Boardの報酬は無償だとか。

会議は年4回(電話2回の対面2回)で、今回は対面の方です。
もっとも、会議は荒れる感じではないようで。一安心です。

2009/06/05

Day4:指標の絞込み

今日は一日、昨日挙げた課題の二つ目をひたすらやりました。

NQFに承認された指標はこの4月現在500超あって、
諸条件から、実現可能性の高そうな10程度まで絞りました。

明日は進捗をアドバイザーに相談して、
必要に応じて掘り下げたいと思います。


昼に湖のほとりでランチを取っていたら
真っ赤な鳥を見かけました。
人生初なので、かなりラッキーな気分になりましたが、
聞いてみたら「Cardinalではないか」とのこと。
当たり前ですが、新種じゃないんですねぇ。


遠いボストンでは今日が卒業式。
友達の晴れ姿を見られないのがほんと残念でなりません。
インターンの日程を決める前に式の日程を
チェックしておけば良かった。。。
ビデオが明日Uploadされるのですが、
見たら泣いてしまいそう。。。

2009/06/04

Day3:今後のタスク

インターンも3日目になり、自分の今後のタスクも
明確になってきました。

ひとつは、毎年の調査票を更新すること。
更新、といっても中身を書き換えるのではなく、
複数のファイルに散らばっている情報を
指標ごとに横串を通しなおす作業です。
(例えば、指標Aについて、定義・結果記入欄・
 スコアリングのアルゴリズム・FAQ等をまとめる。
 今は、それぞれが別ファイルなので。)

もうひとつは、NQFに承認された指標の中から、
次年度以降の調査に盛り込めそうな指標候補を
ピックアップする作業。
これは結構地道ながらもエキサイティングな仕事になりそうです。

選ばれた指標が全米規模で取得されることになる可能性があり、
それは直に現場への負担に結びつくこともあるので、
本当に意義のある指標を選ばなければなりません。
うーん、やりがいありますねぇ。

2009/06/03

Day2:指標の取りやすさ、オーダリングの評価

今日も充実した日でした。
でもさすがに午前いっぱい続いた電話会議は
集中力が擦り切れそうでした。


□指標のFeasibility
昨日も書きましたが、いくら優れた指標でも
取得に莫大な手間がかかるようでは現実的ではありません。

ということで、基本的に私のインターン先では
レセプトデータから取得できる指標に絞っています。

そんな中、今年度新たに加えた指標の中に、
カルテからしか取れない指標があることが判明しました。

全米でも最大級の病院チェーンの担当者から、
「3,000以上のカルテをレビューすることはできない」との
クレームが入った次第です。

対応方針はいくつか考えられますが、その指標を無くすか、
全数調査ではなくサンプリングでも良しとするか
のどちらかで決着するものと思われます。

それほど、指標の取りやすさ、は重要なのですね。

この指標はNQFの承認を得たものでしたが、
NQFのレビューの段階でもこのような問題の発生は
予想されていなかったみたいです。

さて、本当にすごいのはここから。

自組織での内輪な対応でとどまるかと思いきや、
「業界のスタンダード自体を変えよう」という方向に
話が行きました。

問題の根本的な所は、重要な指標にもかかわらず
一部の情報がカルテにしか載ってない点。

そこで、その情報が今後コード化されるように
医療情報の統一規格を作っている団体に働きかけることになり、
今月中旬にはそのための折衝をすることまで決まりました。

行動の素早さとともに、規格統一団体の柔軟性も
目を見張るものがあります。

後は、NQFへもこの指標の問題点をフィードバックするとのこと。

エラーがあれば、そこからレッスンを引き出し、
忘れる前に穴を塞ぐ。見事です。


□オーダリングシステムの評価
医療情報の電子化に関しては賛否両論がありますが(電子カルテ等)、
ことオーダリングシステムに限っては医療安全に貢献するという
エビデンスがかなりしっかりしているので
私のインターン先もその推進を後押ししています。

面白いのは、各病院が導入したオーダリングシステムを
横並びで評価しようという取り組み。

評価方法は
  1. 予め用意された患者データ10人分をダウンロード
  2. 定められたオーダー50通りをそのデータに適用
  3. 適切なアラートが出たかを評価(アレルギー・薬の組み合わせ等)
となっています。

一般には小児病院のほうが成績がいいそうです。容量用法等、
大人よりも注意を払ってシステムを構築しているからとのこと。

日本ではシステムを導入したらしたで、
それがどれくらい他と比べて優れているかも確認する機会が無いので
こういう取り組みは面白いなと思いました。

ベンダーの淘汰も進みそうですね。

2009/06/02

Day1: 評価指標作りのコンセンサス形成過程

不安は杞憂に終わり、初日から大興奮のインターンでした。
ケーススタディを抜け出た、リアルな体験にはしびれます。

今日からしばらくの間は友達向けの近況報告というよりも、
すこしマニアックな話になります。あしからず。


医療のアウトカム指標のコンセンサス形成
かつては色々な機関が独自にアウトカム指標を作っていましたが、
どうやら「指標についてNQFによるendorsement(承認)をもらう
→指標を活用する」という流れができつつあるようです。

NQF(National Quality Forum)とは官民連携で作られた
非営利の組織で、医療の質の評価と公表に関する
国家戦略を立てようとしています。

今は医療の質評価の文脈で最も影響力を持つ機関といっても
過言ではなさそうです。

ここで決まったことは概ねCMS(公的保険)の取り組みとして
採用されることになります(≒全米規模で実施)。


今日はそのNQFがいかに関係各者と指標に関するコンセンサスを
形成しているのかを目の当たりにしました。

私にも不明な点がありますが、概ね下記のようになっています。
  1. 専門家による委員会(技術的な側面の検討)
  2. 関係各者による委員会(ステークホルダーの意見交換)
  3. NQFメンバー/パブリックによるコメント
  4. NQFメンバーによる投票
  5. 承認委員会によるレビュー(重要性、妥当性、消費者の使い勝手、実現可能性)
  6. NQFの評議会での承認
ということで、今日は3と4の間の会議でした。

会議は電話会議で、医療提供者、学会からビジネスサイドまで
20以上の団体から担当の人が参加して
予め出揃ったコメントに関する意見を述べていました。

私のインターン先も指標の提案をしており、
それに対する反対意見も出ましたが、
何とか反論はクリアできたようでみなさん(といっても二人、)
ガッツポーズです。

あとから話を聞いて興味深かったのは、
関係各者によってフィロソフィーが全く違う中でも、
もう何年も意見交換しあっているので、
互いに譲歩をしてでも合意形成をしましょう、
という雰囲気・チームワークができあがっている、とのことでした。


質の評価指標Tips
  • 日本でもそうですが、プロセス指標からアウトカム指標へ重点を移しましょう、という動きは確実にあります。
  • あと興味深いのは、"Composite Measures"に注目が集まりつつある点です。これはいくつかの指標を、重み付け等した上で一つにまとめて質を総合評価しよう、という流れです。(もう少し勉強したらまたUpdateします)
  • その他、質評価のデータをどこから取るか、という点も面白い論点です。例えば心臓の手術にしてもある学会で形成された指標は個別のカルテからデータを取っていますが、ビジネスサイドはレセプトデータからで十分、と考えています。これに関しては、科学的な精密性と指標の活用可能性の間の綱引きになります。いくら精密でもデータ取得に莫大なコスト(主にマンパワー)がかかるなら国家的な取り組みにはなり得ません。また、簡便でも精密でなければ使えません。が、今のところは、カルテからデータ取得を、という流れにはならなそうな感触です。

□友達からのQ&A
  • Q. 労働者側で指標を作って、誰に対してどのように活用するのでしょうか?病院に対して、価格設定を下げてもらう感じなのでしょうか?
  • A. 労働者側で指標を作って、といっても、指標自体は大学かどこかの研究機関が請け負って作ることになるので、普通の指標と大きく異なるということはありません。病院が自分自身で活用できますし、消費者も使えます。病院に対して価格を下げるというよりも、医療の情報の透明性を上げて、従業員(患者)や企業(保険の購入者)が今よりも少しでも賢い選択して、いい病院へシフトすることを狙っています。もちろん、Pay for Performanceにも活用できるので、金銭的なインセンティブ・ディスインセンティブに結びつけることも可能です。

明日はまた別な会議のようで。
楽しみです。