大きな収穫でしたが、一番の学びは
「委員の人選そのものが組織の性格を大きく規定する」
ということを実感できたことでしょうか。
今回、一連の指標候補の中で一番意見が割れたのは
「生存率予測」という、保険の購入者サイドの団体から
提案があった指標でした。
この指標は手術の死亡率と、その手術の実施件数を基に
生存率の将来予測値を割り出す仕組みですが、
死亡率を算出する際にリスク調整*がなされないことや、
手術の実施件数とアウトカムの関連性に関し
医療提供者側の委員が強い難色を示しました。
普通のアウトカム指標であれば、NQFは
リスク調整をすること、もしくは、
リスク調整をしない場合はその根拠を提出すること
を求めています。
指標の推進者サイドの委員は、「リスク調整をしなくても
リスク調整後と同程度の精度の高い予測値がでる」という
ミシガン大学の研究結果を引用していましたが、
それでも医療提供者側の委員の懸念は変わりませんでした。
そもそもこの指標が提言された背景には、
なんだかんだアメリカでは手術の死亡率に関する
全米レベルの公表データがない**という事実があり、
保険の購入者側が次善策として提案したのでした。
両者の溝は最後まで埋まらぬまま、ついに投票へ。
結果は、賛成8、反対6、棄権1(推進者自身)、
ということで、この指標はかろうじて委員会を通りました。
面白いのは、その票の内訳です。
賛成した8人の委員のバックグラウンドは
消費者団体、保険の購入者、
地域におけるQuality Improvement実施主体。
一方、反対した6人のバックグラウンドは、
医師の団体、病院団体、研究者でした。
不完全な指標でも情報を知りたい消費者・保険購入者と
完全でないなら評価されたくない医師・病院。
両者の立場の違いが鮮明に出た瞬間だったと思います。
そして、もっと重要なのは、委員の構成であって、
消費者・保険購入者がマジョリティを握っている現状に
おいては、何かぎりぎりの決断が迫られたときは
常に消費者サイドに有利な結論になる、ということです。
委員の人選そのものがいかに重要か、ということを
強く実感させられた出来事でした。
NQFがどの程度意図して現在の委員の構成比を決めたかは
分かりませんが、私には、
「色々な利害関係者の意見を聞きます、でも、
最後は消費者を尊重します」というメッセージに聞こえました。***
翻って日本はどうでしょうか。
基本的に、保険者 対 医療提供者 という委員構成になっています。
この構成でどの程度患者の視点が織り込まれるのかという点は、
やや疑問には思います。
委員構成のバランスの良さは目を引くものがありました。
この団体がこれからどのようなアウトプットにを出して行くか、
実際に政策にどのような影響を与え始めるか、
行方に注目したいと思います。
注釈
*リスク調整…重症の患者さんを多く扱う病院と、そうでない病院を公平に評価するために、「どの病院も同じくくらい重症の患者を扱ってたらどうなってたか」という仮定(モデル)の下で死亡率等を計算しなおすこと。
**STS(胸部外科学会)や州政府、CMS等、おのおのでデータを持っていますが、公表されてなかったり、患者層が限られていたりで、全米レベルでのデータは無い状況です。
***(後日談:この委員会の上に位置づけられている役員会は医療提供者が過半数を握っているので、必ずしもNQFが消費者よりだとは言えないみたいです。)
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